身を焦がすような恋を期待して、映画化された「寝てもさめても」を読んでみたんだけど

 もはや炎上である。

って、冒頭に書きたくなっちゃうのにはわけがあって。

「寝ても覚めても」は恋愛小説なのか?

 久々に読書したいなー。気分的には、こう身を焦がすような大恋愛とかそういう感じ、と思い立ったある日。

 ラブストーリーなんて、あんまり読まないジャンルなんだけど、なんかいいのあるかな?ということで、たまたま映画公開のCMを見かけたのがきっかけ、という選びかたをしたのがこの作品です。

 なんでも、有村架純ちゃん主演で、出会った彼は元カレと顔が同じ。わたしがひかれているのは――?みたいな感じの大人の恋愛映画の原作らしい。ほうほう。

 ということで読んでみたら、想像をすいっと越えられて、全然違う地に着地。いや、目的地ここじゃないんですけども。いや、そーゆーの希望してなかったんですけれども。というか、これって、恋愛小説なの?ほんとに?って思ってしまった。ゆえにわたしの中で炎上してしまった作品、なのです!

 よーく考えれば、そう、恋愛が描かれているけれども。そう、だから恋愛小説ジャンルには当てはまることでしょうけれども、ああっ!どうしてくれる。というフラストレーションと共にお送りしてします(笑)。よかったらおつきあいください。

 ちなみに映画のほうはまだ見ておりません。小説と映画ではまた別の物と思いますので、あくまで本の感想なのであります。

緑の違和感

 主人公の「わたし」こと朝子で大学生のあさちゃんは、大阪の27階の展望フロアで若い男の子と出会います。エレベーターから降りてきた、緑色のパーカーの彼に要はひとめぼれをするのです。

 彼は、朝子が「すごくいい歌と思う!」歌を歌いながら通り過ぎていき、あるメモを落として行くんですが、ここで最初の違和感。

緑?

恋愛小説で、緑とな?

 カーキや深緑は落ち着きがあって好きなんです。でも「鮮やかな緑」なので。うーん、どんなキャラ?戦隊ものでいうとグリーンってどんなポジションだっけ……?(パトレンジャーをググってみたところ、明るくすなおないい子っぽい。)

 ……まあ舞台は1999年らしいので、当時流行っていたのかもしれませんが。どうも恋愛の香りがしないような?

 そて、朝子はさして大切でなさそうな内容のメモを拾うのですが、「さっきのあの人」のだから「どうしてもほしい、」と追いかけて渡すどころか、ポケットにつっこんでしまいます。

 しかも、探しに戻ってきた様子の彼に返すどころか、「なくしても困らない」「すぐ忘れてしまうだろう」という身勝手な推測の上で、

「だから、これはわたしのものだ」

言い切ってしまうところを読んだとき、ぞわぞわっとしてしまいました。(これってわたしだけなんでしょうか??)

 れ、恋愛小説なのに感情移入できない……。

 大好きな有名人とかアイドルのものだったら、ちょっとわかるかもしれません。もうきっと二度と会えないし。憧れの先輩のとか、そういうんだったら理解できるかも。恋ゆえに。でもそれを、「本人が探しに来た」のまで無視して、自分の欲望優先できる……?

 この子、わたし嫌いかもしれん。

 全編を通して、この印象はほぼすべての登場人物に当てはまることになるとは。この時は知る由もありませんでした。

不可解な彼

 緑の彼、名前は麦と書いてばくと読むのですが、彼も彼で、正直、朝子がどうしてここまで惚れこんでしまったのか、ちょっと理解しがたいのです。

 例えば映画『ラ・ラ・ランド』の彼だったら、最初相当感じ悪いのですが、初めてのデートになりそうな映画館に、ちゃんとジャケット羽織ってくるような、「あれっ? ちゃんとおめかしして来てるなんて、ちょっとこの人、カワイイ!?」っていうような魅力が、ピアノの才能の他にも出てくるのです。

 が、どーも麦は、不穏で不審な雰囲気があるのです。

謎その①。写真に写りたがらない。

 朝子はカメラが趣味なのですが、彼はどーしても取られたがりません。

 恋人なら一枚くらい写真が欲しくなるものですから、朝子の気持ちはわかるし、照れて断る男子というのもわかるけど、それ以上となると、なにか第三の暗い訳があるのではといぶかってしまいます。ほんとは彼女がいるとか?、犯罪者であるとか??

その②笑顔で暴力をふるうことができる。

 学園祭でのこと。流ちょうな日本語で理詰め小うるさいキャラのオーストラリアの留学生が、朝子をターゲット(?)にした時のこと。麦は留学生の太ももと手をふみつけるという暴挙に出た直後、朝子に「なんか食いにいこうよ」と笑いかけるのでした。友達はドン引きしますが、朝子は考えないようにすることでやり過ごします。

その④話し方が変

 何回かあるんですが、彼はものの見方が独特なのか、雑巾に生えてしまったカビをじっと見つめたあと、さらに電灯にかざして

「強い感じの緑色。ふわっとしてる。」

とかいうわけです。(あっ。また緑色だ。)

しかも、数日ふらっと家を出て行って、みんなを心配させて、帰ってきてこれ。

 うーん、もしかしてこれは、発達障害、っていうことなのかなあ?(「障害」とつくが、知能はふつうもしくは優れており、生まれつきの脳の発達が通常と違うため、空気を読むとか、冗談を理解するなどの対人関係が苦手だったり、落ち着きがなかったり、読み書きが困難だったり、自閉症を含む特徴の総称のこと、らしい。ちなみに、感覚が異なるという意味で思い当たっただけで、暴力的かどうかとは関係ありません。)と作中の様子を見て思いついてみたりするのですが。

 とにかくどうも不可解。どこにこの人物の魅力が?と、考えると、

 顔、なのか?

 顔がバツグンによいのか?

 作中、さほど美しさが強調された印象はなかった気がするんですが(読んだのけっこう前なので)、朝子がこの顔を気に入っていることは書いてあるんだけども……。しかし、その後についてる職業的にはそれで正解のようです。

 漫画であれば、読者として一目でビジュアルにてぐっと持ってかれる一因にはなりうるのですが、しょーじき惚れないぞ……この男子……。読むの……どうしよ?(☜心の声)。

春代ちゃんのこと

 ほかにも、「?」と人格を疑う人は登場して、例えば麦の友達、岡崎のお母さん。麦は岡崎親子のアパートに住んでいて、みんなで焼き肉を食べる事になったとき、お母さんは若い時の恋の話をするのです。しかしそれは洗い物をするためキッチンで朝子とふたりきりになると、あの話は息子が3歳の時の話だと言って「内緒ね」って。

 岡崎父の方はどうやら亡くなっているものと見えるのですが、その話がいつのことかはちょっと不明な上に、同性ってことで話されても……困ると思うのですが。

 そもそも、朝子の家族が出てこないし、「今後もきっと家族とは話さない」という一文もあるので、そこにも不穏さがあったりします。

 唯一信用できるのが、春代ちゃんです。ぽっちゃりしたおしゃれな春代ちゃん。今見たら、朝子の三つ下でした。が、敬語は使いません。

 彼女は最初から、麦について、「ああいう顔の人って、今一つ信用できへん」から大丈夫なの?と心配してくれるのでした。

 男性はどうなのかわからないけれど、女子にとって、女友達というのはこういうところも頼りになる存在で、盲目状態の友達を見守りつつ、彼女が本当に幸せになれる相手かどうか、見極めてくれていたりするわけです。話してて「えーっ!それってどーなのー?」と指摘されて、初めて自分たちカップルの関係を客観的に見て、参考になったことがある人もいるのでは?

 まあ、そこで路線変更できるかって言ったら話は別なんですけれども。後に、あのとき○○ちゃんの言ってた通りだったわってこと、世の中結構ある気がします(笑)。

 そんな春代ちゃんも数年後、なんか紫のワンピースのかわいい子がいるなと思ったら、やせて整形もしているんだけど。でも中身は彼女そのままで、公言もしている男前です。

 整形した子ってあんま会った事ないので(最近は気軽らしい)、否定するものでもないけど、まるまるすっごく共感できる存在とは異なったなーという感もあったりして。

麦退場。そしてホラーなの?

 話は戻って、朝子は麦と付き合って幸せに過ごすのですが、なんでもないある日、上海の映像を見た麦は、船に乗って行ってしまいます。一か月後に、友達の岡崎越しに、当分帰れないからごめんと伝えられ、朝子の世界から、退場です。

 三年たって、朝子は演劇をやっている友達と上京。そこで麦そっくり……というか、そのものの顔をした亮平と出会うのでした。

 その間朝子は新しい恋もせず、嫌って別れたわけじゃなし、やりきれなさも想像に難くないところ。はじめて亮平を見たときに、なぜ麦は名前を呼んでくれないのかと思ったり、名前を確認するまでにあたふた動揺していたり。この辺は恋愛小説っぽいのですが、問題は次。亮平とふたりになった時、

「その顔を顎のあたりからぺろんとめくると、その下から同じ顔が現れて、ただいま、と言ったりしないだろうかと、不安になった。」

ホラーですやん。

ホラーばりの一文ですよ。ぺろんって何?こわい。なんか質感がわかる気がする……怖すぎる!!

 ……これは恋愛小説ではありませんな、たぶん。

そういえば、最初のほうに友達がカラオケで歌うタイトルがですね、

「恋って呪いだね」

なんですよ!?うわーーー。

 この後、ふたりは付き合うことになり、常識人の亮平は友達受けもよく(とはいえ少し悪賢い)、平穏な日々を送っているのですが――――このあとはネタバレになってくるので、読んでみたい方はお気を付けください。

一番解せないところ

 せっかく麦を忘れかけていたのに、彼は再び登場します。なんとテレビに俳優として出演しはじめたのです。それをはじめて目撃したときの、朝子のうろたえぶりは相当なもの。

 日常のなかで麦に似てるねっていわれるのを恐れてみたり、春代に亮平を会わせたときも不安なのですが、あっさり否定されるのでした。やがて亮平が大阪へ帰ることになり、朝子も一緒に引っ越すとなったとき、ついに麦が目の前に現れるのです。

 この時、朝子は31歳になっており、春代も既婚者、友人には赤ちゃんも生まれています。しかし、会いに来た麦を前に、朝子は何も迷っておらず、「長いあいだ、まっていた」なのです。2時間後には大阪に発つというのも関わらず。

 よく言って逃避行ですが、麦は仕事も辞めてきたそうで、この人、大丈夫なんだろうか……。しかも、和歌山まで知り合いのカップルの車に乗せてもらうのだそうで。

 いやいや、せっかくの再会なのに、お邪魔虫では?と、まだ恋愛小説にこだわってみるわたし。

 この後、亮平を「裏切った」朝子には友達ふたりからメールが届き、「もう連絡しなくていいです」と。それに対する朝子の無反応さ。これは一体何?

 唯一春代ちゃんは電話をくれるのですが、それさえ、内容は冷静に絶縁なのです。

 いやちょーっと待てと。そんだけ仲良かったらね、せめて朝子の言い分聞いてやって、それでもムリなら……しょうがないくらいのスタンスはないの?みんな、友達なんだよね?

 そんなもんなのかな?

 ここがこの作品で一番解せないところ。

 たぶん、社会的な拒絶ってことなんだろうけども、そもそもは朝子が友達で、彼はその彼なんですよ。いくらいい奴だ仲間になったと言っても。仲間内で恋人ができて別れたってなったとき、恋人のほうをとる友達って?

 多少なりと逡巡するものではないかと思うんだけど、冷酷すぎませんか?その程度のお付き合いであるということなの??それとも、相手が世間で「気になる男第一位」だからということが、余計に彼女らをイラつかせるのかなあ?

 それでも、三人いたら一人くらい違う考えの子がいそうな気がするんだけど?昔の恋か、どーっしっても忘れられないんだねと。あんた最低だけど、気持ちはわからんでもない、くらいの。

(まあ、読み返せば、ここまでくるのにちょっと間が開いてて、その間数回のアクセスがあったのかもわかりませんが……。)

 今もう一度ページ開いてみたら、このあとの怒涛の展開のきっかけが、春代ちゃんからの写メールでした。これは春代ちゃんの愛かもしれない。

 直後、「この人、亮平じゃない」と朝子は気づくのですが、いや、そうでしょうよ。と思ってしまいました(笑)。そんでもって、朝子は麦のミカン箱から無断でパンを持ち出すのですが、

「必要だと思ったから」ですって。

ああっ!もう!ついてけない!この子には!辟易する!!

最後はもっと彼女にうんざりしてしまうのですが、以上がこの本の感想となります。

 どうですか?恋愛小説じゃ、なかったでしょ?(笑)。

 わたしは、「執着」について書いているように思えました。たしか仏教の教えで、執着を捨て去る事が大事っていうのがあった気がしますが。朝子はそれの逆をゆく!

読んでも、幸せ気分にはなれません(笑)。

 解説の豊崎さんによると、柴崎さんの描く恋は、「なんというか、こう、いつも少し変わって」いるのだそうで、「違和感を覚え」たりするらしい。そんでもってラスト部分の「驚きとおぞましさは超ド級」。

 やっぱそうですよね!そう思いますよね?わたしだけじゃないですよね?こんな気持ち!

 大好きなチーズケーキだと思って珈琲までちゃんと入れて箱をあけたら、肌寒いっていうのにゼリーで、しかもジュレタイプの、わたしの嫌いなタイプのゼリーだったときの、そんでもってコーヒーどうしようみたいな、とか書こうと思ってたんだけど、たぶんゼリーどころじゃないんですな。きっと。

 なんでしょう。それは緑色のゼリーで、ずるずると震えるので、なんだか嫌な予感がすると思ったら、窓の外にレックスの足が見えて、背後からヴェロキラプトルが覗いていた、みたいな感じかな。まあともかく。

 ちょこちょこっと洋服を買う楽しさがあったりとか、大阪弁の女子同士の会話とか、楽しい所はあるんですが(ガーリーと言われるらしい)、話全体としては、こうなるので台無しに(笑)。舞台やってる友達の役柄の忙しさの記述や、二時間サスペンスのストーリーの解説の仕方やらが、おどけていてなかなか楽しかったりするんですけどね。

 そして、朝子がカメラをやってるので、スナップショットのように、各景色がちょこちょこと出てくるのですが、それが途中からどうも苦痛になって。

 ファンはこの辺を分析して、その対象物の配置やなんかに深い意味を見出すのかもしれません。が、読み取る気力がわきませんでした。

 深読みするなら、冒頭の展望台で話しかけてきた男は、もしかして朝子と同じような体験をした男なのか、あるいはという気もしてきたりします。

 もう一回読んだら違ったところを発見するのかもしれないし、誰かに解説してもらったらもっと興味深い部分が出てくるのかもしれませんが、正直、一回読むと、しばらくいいです。って感じがします。もしかしたら永遠に……。

 記憶に残るという点では間違いありませんが、表紙の有村架純と東出昌大はもったいないけど、うちの本棚にはいらないな……という感じでした。これなら同じくコレクションしたくないと思った『罪と罰』のほうが、まだ本棚に欲しい気もするわたしの嗜好なのでした。

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