<少しネタバレあり>
『ホームランド』は、バラエティ番組で劇団ひとりさんが推していた海外ドラマ。なんとなく見始めたら、もう止まらなくなってしまいました。
ホームランドのHPなら第一話、アマゾン・プライムならシーズン4まで吹き替えでも見られるので、ちょっとチェックしてみてください。
あの『24』製作陣が新たに放った作品と聞けば、食指が動いてしまうのでは?映画『ゼロ・ダーク・サーティー』とかに興味をもった方にもおすすめです。
『ホームランド』帰還兵は祖国で敵になったのか?
おおざっぱに言えば、近年、世界を騒がせている中東系のテロ組織と、アメリカはCIAの攻防を描いた作品。
テンポよくスピーディーな展開、どちらの側に立っても息を飲んでしまうサスペンスを感じるのは、最初の「敵」が、疑惑の米軍帰還兵だからかもしれません。
彼は8年もの間、かの地で拘束された後、アメリカ軍に救出された「英雄」のブロディ軍曹。しかし、CIA捜査官キャリーは、米兵がテロリスト側に寝返ったという情報を入手、ひそかに監視を始めます。
ブロディ軍曹。見るからに悪そう……。
彼は本当に寝返ったのかどうか。捜査中、さらに事がややこしくなるのが、キャリーが何らかの薬を飲んでいること。さらに、情報を得るため軍曹に「近づき」すぎ、捜査対象に恋愛感情まで抱き始めているような……。
信頼できるひげのボス、ソウルや、元カレで折り合いの悪い副所長デービッド、仕事仲間のバージル兄弟や医者の姉に迷惑をかけまくって、でも真実にたどり着こうと必死にもがくキャリーの姿は、愛するJAZZの不穏な響きと重なって、なんとも言えない中毒性を持っています。
ソウル。(『クリミナル・マインド』のおじさんじゃん!)おひげ、素敵です。
キャストが懐かしい顔!
キャリーを演じるのは、「ロミオ+ジュリエット」で、かつて麗しい美少年だった頃のディカプリオの相手役を務めたクレア・デインズ。
金髪の上品な優等生ルックですが、今回のこの役はエミー賞とゴールデングローブ賞をWで受賞するほど、真実味にあふれた振り切った演技を見せてくれます。
すっかり立派な大人(役者)になって……なんて思ってみたりして。
麗しのクレア、……ならぬレオさま。
……翼が生えているのはあなたです、レオさま。
ごめん、クレア・デインズのドラマでした。
beautiful!
一方の軍曹はイケメンではないのが残念ですが、その奥様役は美形。SFドラマで見かけた気もしますが、どこか爬虫類系?の雰囲気をまとった美貌をお持ちです。
その妻は夫を6年待ち続けましたが、耐え切れず、夫の親友であるマイクと同棲の計画を立てている矢先の出来事でした。
そんな母に反発する娘は、話数を経るごとにかわいらしさと重要性が増してくるのが面白いところ。
そして、疑惑を知らぬがゆえに軍曹を取り立てて、トップを狙う副大統領……自国の政治に不穏分子を引き入れてしまうのでしょうか……?
いい邦題、つけてみない?
さて、英語で故国や祖国を意味するタイトル『ホームランド』ですが、日本人のぱっと見では内容がわからないような。
何か邦題つけたらもっと面白そうなのに、と思ってちょっと考えてみました。
キーワードとしては、やっぱ軍曹に疑惑があるわけで……、
秘密の軍曹? って、アッコちゃんかい!
隠密軍曹…… 忍者じゃないんだから。
沈黙の…… セガールか!
反逆者…… かどうかわからんし、B級っぽいなあ。
ああ、ボキャブラリが。
邦題って難しいんですねえ。
中東とかイスラムってつけばイメージは沸きやすいけれど、テロに走るのは一部の過激派だし、実際にはアジアにもイスラム教徒の多い国はあるわけで。あんまり変なイメージづけはしたくないような。
うーん、還ってきて変わってしまっている男……理想と悲劇……洗脳……?
いや、出てきません。やめよう(笑)。
正義とジレンマ
さて、このドラマの特筆すべき点は「ジレンマ」と「人間の感情」のような気がします。
普通の勧善懲悪の作品であれば、ヒーローは善、敵はものすごい悪、というわかりやすい構図で手放しに悪人を憎めるのですが、これはそうはいきません。社会問題や倫理や……も含んでいて。
そもそも、彼は本当にテロリストかどうか?という疑惑に始まり、洗脳されたとすれば何かに共感したのか、その理由はなにか。
そして敵はなぜ、攻撃をしかけるのか。
善であるはずの米軍や副大統領の行為はまったくの正義なのか、という揺れが、結果的には軍曹の中にも表れてきて、それが事態を思わぬ方向に引っ張っていったりするんです。
また、ある不正を公表すれば、そのことを正したり罰することはできる(かもしれない)が、それによって全く別の問題が浮上する。そちらのダメージの方がはるかに大きいゆえに、身動きがとれず、くうぅ!ってなるところに、なんかリアルな現実を感じさせられます。
正しい事をやったからと言って、それでうまくまわるほど、世界は単純にできていないんですよね。悲しいかな。
もう少し踏み込むと、家族でキリスト教徒であるブロディ軍曹は、拘束中にイスラム教へ改宗し、それは家族にも伏せています(怪しい……)。激しい拷問を受け、憎むべき敵の宗教に心が向けられたのはなぜなのでしょうか?
生きるための改宗だったのであれば、救出された今、元の宗教に戻りたくなるはず…。
回を追ってその真実を知ると「テロリストではない」というのも嘘ではないような気がしてくるのです。
同僚は最高!でも友達って大切。
その彼と心を通わせてしまったキャリー。なぜ敵と?と思うわけですが、他にも捜査官と犯罪者が恋してしまうドラマあるみたいですよね。ありえなくはないことなのかもしれません。
戦地での体験は、そこにいたもの同士しかわからない、他の人には理解してもらえない。そのことが彼女には特に響いたようですが、……。
ドラマですけど、彼女にはいわゆる「友達」がいるように描かれていません。
肉食らしく、バーでたまに男性をひっかけたりはするようですが、恋バナのできる女友達の姿は皆無。仕事関係の男性たちか、家族くらいとしか交流がないんです。
もしも一緒にお茶でもできる友達に、相談なり彼女らの失敗なりを目撃する経験があったら、わざわざブロディなんかには目を向けなかったんじゃないかしらと思ったりするのですが。
複雑な彼女には、彼の複雑さに非常なシンパシーを感じてしまったのかもしれませんね。
しかし彼女、信頼のできる同僚に恵まれているのは「24」のジャック並みです(笑)。
考えたことなかったけど……
そうそう、それからこのドラマは大人向きです。監視カメラを使用するのでベッドシーンもあります。ので、お子様にはご注意を。
そして、なかなか知らなかった戦争の真実(らしきものの一面)も知りました。
軍人さんというのは英雄だけれども、戦争のストレスは相当なもの。
無事に還ってきても、不安定で別人のよう、とか、飲んだくれて暴力をふるったり、というのは過去の映画でも目にしたことがありますが、今回のドラマでは、妻がベッドで失望するという事態も描かれました。
考えてみれば、それはそうですよね。生死を賭ける戦争で受けるダメージは、やはり計り知れないものなのでしょう……。
海兵隊員といえば、頼れて健康そのものなイメージ。そこに惚れたという女性も多いはず。
もしも新婚早々で派遣が命じられ、還ったときに別人になっていたら……? 元に戻れなかったら……?それは夫だけではなく、伴侶である妻の人生や未来にとっても大変な苦痛と困難があることは間違いありません。
そして誰も言わないけれども、実際にあった、というか、今もあるのだろうなあ、といろいろ考えさせられてしまったのでした。
願わくば、理解しあえずとも互いを侵すことのない敬意を持ち、過剰な欲を手放すことが出来たなら、現実も変わるのかもしれませんが……。
一方で欲は生でもあるのがまた、悩ましいところです。
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