芸術に読書に映画の秋。
おうちであったかいココアを飲みながら、映画でも見ようかなーというインドア派のあなた。動物大好きの子供たちと一緒に楽しめる上、おとなでもうっとりできる映像美の冒険ファンタジー作品があるんですよ!
フクロウの冒険譚が、ここまで美しい映像だとは!
作品は『ガフールの伝説』。2010年と旧作の部類となりますが、登場するフクロウたちが羽根の一本一本にまでリアルに作り込まれた3Dアニメ。
なので、まるでナショナルジオグラフィックやBBCのアニマルドキュメントを見ているような感覚で、全く古さを感じさせません。ここぞという場面のスローモーションが本当に美しい。
気品ある白いフクロウから、スズメのようなかわいらしい模様をつけたものまで、これでもかというほど多種多様のフクロウが登場するので、動物大好きなお子さんなら、これをきっかけに自由研究も完成できちゃうんじゃないでしょうか?
そもそも、フクロウが主役の物語というのが、珍しいですよね。
しかも夜行性ですから、生活の感覚もちがうし、どんな生態かというのもメジャーではないので、へええー食べた獲物の毛を丸めて吐き出すんだー?とか、勉強になります(笑)。そして、ストーリーも鳥類ならではの飛翔場面や、うまいこと利用したなーっていう弱点?を戦略に組み込んでいて、大人でも興味をそそる展開となっています。
いきなり誘拐!?
主人公は、かつての英雄”キールのライズ”に憧れて戦いごっこをする、「メンフクロウ」の子供たち。いくつかあるフクロウ王国の中のひとつに住んでいるようです。
お兄ちゃんのクラッドはちょっと意地悪で、夢見がちな弟のソーレン、そしてまだふわふわの雛のエグランタインがかわいい!両親と子守りのピンクのヘビ(!)に育てられ、飛ぶ練習の初段階「枝渡り」をしはじめたところでした。
月のきれいな夜、親が狩りに出かけると「ふたりで枝渡りをしよう」とクラッドが持ち掛けます。ところが兄弟はけんかした上に失敗し、木の下へ落ちてしまうのです。
うまく飛べない子供たちにとって、地面は危険でいっぱいです。捕食動物に狙われてしまうからです。すぐに巣穴へ戻ろうとしているところを、見知らぬフクロウに誘拐されてしまいます。大きな足でがっしりと体をつかまれては、とても身動きがとれません。
どこか知らない所へ運ばれてしまう際の森や暁の大自然の映像がまた、とても美しく、ストーリーとはまた別に、はっと心を奪われてしまいます。
純潔団の恐ろしさ
まがまがしい雰囲気の岩場まで連れてこられるとそこは、同じように誘拐されたフクロウの子供たちでいっぱい。ここは養護施設であり、総督と純潔団に忠誠を誓うよう強制されてしまいます。
総統の妻だというナイラは、とても美しいフクロウだけれど、同じくらい冷たそう。クラッドは若い戦士として、ソーレンは下働きとして引き離されてしまうのでした。
しかも、下働きに選ばれた子たちは、「月光麻痺」によって思考停止状態の労働者にされてしまうのです。また、不気味なコウモリが扱う、光るかけらを集めさせられるのですが、そのかけらは不気味な青い光を放って、近づいた者を動けなくしてしまうのでした。「なにか、すごく悪いことをしてる――」。
知り合ったジルフィーのおかげで月光麻痺をまぬがれたソーレンでしたが、「ふり」をしていることが、一匹のフクロウにばれてしまいます。しかし彼は、家族を人質にとられた味方で、2人に飛び方を教え、湖に住むキールのライズを含めた”ガフールの勇者たち”に助けを求めろと言うのでした。
一方、コンプレックスを抱えるクラッドは、純潔団の方にどんどん惹き込まれてしまいます。ソーレンたちの目的がナイラにばれると、なんとナイラの肩を持ってしまうのです。
味方のフクロウはナイラに殺され、命からがら逃げるソーレンとジルフィーにハラハラしながら、風にふかれる毛並みならぬ羽根なみ?や、逃げ切った雲の上の美しさにまたうっとりさせられたりするのでした。
勇者の登場シーンがかっこよすぎる!
カクカクした動きのディガーや、ちっとも鼓舞させてくれない歌うたいのトワイライトを道案内に、子守りのミセスPにも再会し、みんなでフールミア湖を目指します。
一方で、恐ろしい総統メタルビークのもとには、エグランタインまでもが誘拐され……。 「ここでしていることは誰にも言わないから、お家に帰ろうよ」と怯えるエグちゃん(涙)。小さくてもやばいってわかっているんですね。
そんでもって、「言わないから」って(涙涙)。まるで、おやつつまみ食いしちゃったことは黙っててあげるから、ね?みたいないじらしさに、こんな小さい子巻き込まないでよクラッドー!と思ってしまうのでした。
さて、ソーレンたちは広大な湖の入り口に立つ、奇妙な預言者ハリネズミに勇者の住む神木の位置を教えてもらいます。「疲れ切って飛ぶ気力もなくなった時、やっと半分来たと思え」と言われる道のりです。
ここからがめっちゃ好きなシーンで。
めちゃくちゃな吹雪の中必死に飛んでいると、ディガーの羽根が、寒さで凍ってしまうんです!
さよなら、と言って落ちていくディガーをソーレンは必死に追うのですが、雲を突っ切って出た先は、なんと大海原のような湖のうねり。間一髪で体勢を整えた彼の目に映るのは、雪の舞う緑の果てしない大波だけ。
どこにもディガーの姿がないのです。翼が凍った鳥がこんな湖の真ん中に落ちたら、もう命は……。絶望しかけるソーレンの前に突如、雄々しい白いフクロウが現れます。美しい金の仮面のヒーロー。力強い金の鉤爪には、ディガーが包み込まれていました。
真の勇者とはかくあるべきを体現したようなシーン。かっこええ。つか、ディガー助かってよかった。涙でてくるよ。
さらに、同じく仮面のメスフクロウに仲間がいることを告げると、彼女はわかっていると答えるのでした。助けてくれた上に、すでに存在を知ってくれている。なんて心強いことでしょう。彼らはついに神木にたどり着くのです!
国王夫妻に、灰色のアロミア卿、老いたミミズクのエジルリブ、魅力的なオツリッサなどなどたくさんの種類のフクロウたちが住む神木。各班に役割が課され、勇者たちを育成しながら平和な社会を築いていました。
すぐさま会議が開かれるのですが、証拠がなく、そんな話は疑わしいという者もあらわれます。しかしここで偉いのはソーレン。「ぼくも、勇者たちの話しか聞いた事がないけれど、信じました」と説得するのです。賢い!
即時に王は、偵察隊の派遣を命じるのでした。子供たちは、つかの間の平和を味わうのですが、やがて怒涛に次ぐ怒涛の展開とラストが待っているのです。
映像美とストーリーのシンクロが素晴らしい
暴風雨の中での飛行訓練も、4Kとかで見てみたい!と思うシーンです。
フクロウたちの”芯”(心?)というべき「砂のう」を使って、どんなひどい気流の場所でも飛べるようになるシーンです。
ぬれた毛の一本一本、スローモーションになった雨粒が、本当にリアルです。飛ぶべき風の道といったらよいのか、そののコツをつかんだら、フクロウは目を閉じても飛ぶことができるらしいのですが、これ、映画館の大画面や3Dで見てみたくなります。
飛行シーンでいえば、ある理由で炎のなかを飛ぶシーンが一番感動しちゃいます。ビッグウェーブなみの炎のトンネルを、みんなの生命線を背負って飛翔するソーレンの決死の姿と、広げた翼の美しさ、いまにもこちらを燃やしつくしてしまいような、燃え盛る炎とがあいまって、もうもう目が釘付けになってしまうのです。そしてソーレンのキメポーズのかっこいいことといったら!
かなり激しい戦闘シーンも、アクションとして見ごたえがあります。鉤爪、その剣バージョン、相手の足をつかんでの振り回し、仮面での頭突き!ここまでフクロウが戦うなんて、誰が想像したでしょうか?
でも、カメラワークのおかげ(?)で、「今時のR指定仕様の残酷さ」にはならないから、お子様でも安心して見られますよ。
ネタバレ注意
しかし最後がちょーっと納得いかない点があるんです!クラッドのことです。
なぜ彼はあんなにもひねくれちゃったのか、そして、なぜ神木に来た両親がクラッドのことを思うシーンがないのか、すっごく不満!つかクラッド抜きで家族が成立してるように見える!
まあ、それでグレちゃったんでしょうかね……。でも、親ならさあ!!と思ってしまうのですが。
まあ、原作は15巻もある児童文学だそうなので、はしょってまとめたところもあるのかもしれません。設定がちょっと違うとかもあるみたいですし。(それも踏まえて読んでみたい。)
一段階上の飛翔テクニックを体得するところが、なんかスターウォーズぽいなーとか、家族が善悪にわかれちゃう切なさも見た事なくはないなーとか思いはしますが、全体として、かなりハイレベルな、満足度の高い王道ファンタジーだと思います。
そして、映画はまだ続きそうな終わり方をしているので、いつか続編が製作されるのを期待です。噂では来年あたり……なんて話もあったりなかったりするみたいです。
声優は、『ワン・デイ 23年のラブストーリー』のジム・スタージェス、『エンジェル・ウォーズ』のアビー・コーニッシュ、『ジュラシック・パーク』のサム・ニール、『マトリックス』の悪役ヒューゴ・ウィービング、『RED』の大女優デイム・ヘレン・ミレン、名優ジェフリー・ラッシュ。なかなか豪華な顔ぶれですね。
日本語吹き替えは市原隼人。珍しい感じがしますが、意外と合ってた記憶があります。
画面が壮大な自然美麗ショットでいっぱいになる作品です。一度でも空を飛んでみたいと思った事のあるあなたなら、疑似飛翔体験が、大冒険が待っています。
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